平成28年度総括研究報告書

各地方公共団体における墓地経営に関する情報共有のあり方に関する研究

平成29年3月

研究代表者 浦川 道太郎
公益社団法人 全日本墓園協会 特別研究員(早稲田大学 名誉教授・弁護士)

総括研究報告書/関連資料

各地方公共団体における墓地経営に関する情報共有のあり方に関する研究

要約
本研究は、各地方公共団体における墓地経営に関する情報共有のあり方を検討することによって、各市・特別区が墓埋行政の運用のために、簡便かつ日常的に役に立つ情報を適時的確に得られる仕 組みの構築の必要性を提案することを目的としている。行政区域を跨いで住民等が流動する実状や、人口減少、多死社会を踏まえると、地方公共団体相互間の連携・協力関係による課題解決等の情報の蓄積化とデータベースの構築は喫急の課題といえる。本研究によって、地方公共団体等の連携(ネットワークの構築)[1]の必要性を明らかにするとともに、ノウハウを含めた情報等を適時的確に利活用されるための仕組みの提案を行うものである。
[1]本研究では、ナレッジマネジメントの概念を援用しており、ここで述べる地方公共団体等の連携(ネットワーク構築)は、「場」の共有としての広域行政による連携とweb による業務遂行支援補助としてのデータベースシステムの2 つを指している。なお、ナレッジマネジメントの参考文献一覧をこの概要の最後につけている。
1 研究の概要

墓地埋葬行政は、「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」(平成24年4月施行)により、墓地経営等の権限がすべての市・特別区に委譲された。これによって、地域の実情にきめ細かに対応した地方公共団体の行政運用が促進される一方で、その運用に差異が生じつつある。
これは「地域の自主性及び自立性の高まりの結果である」ともいえるが、行政区域を跨いで住民等が流動するのが実状であり、現実的には運用の差異が手続の混乱や煩雑な作業につながっているといえよう。 ここで、具体的な齟齬の例示を挙げてみる。

地域性や多様性等について地方による特色を十分に考慮しつつも、墓埋法運用における一定の解(方向性)を提示することで、墓埋法の運用に関して安定して効率的な対応が図られることが期待される。 そこで本研究においては、ナレッジマネジメントの概念を援用することで、地方公共団体等の連携(ネットワーク構築)のあり方を提言する。
ここで述べる地方公共団体等の連携(ネットワーク構築)は、「場」の共有としての広域行政による連携とwebによる業務遂行支援補助としてのデータベースシステムの2つを指している。そうした地方公共団体等の連携を図ることで、各地方公共団体では、相互で交わされた情報の蓄積がなされる。加えて、地方公共団体等の連携(ネットワーク構築)において蓄積されるノウハウを含めた情報等は、問題に適時的確に対応するための知識として利活用されることとなり、住民等へのサービス向上も期待される。
本研究では、平成26年度の厚労科研費研究をもとに墓埋法行政運用における条例・細則等の内容を一定の指標のもとに吟味検討することとした。また、東日本の公営墓地を中心とする7都道県の使用許可に関する条例の分析を行った。これらの調査・検討及び考察が、全国各地の墓地行政の特色の分析を踏まえた、新たな墓地行政への何らかの参考となりうることが期待できる。また、今後、墓埋行政の安定的かつて適正な運用に資するための情報共有化、データベースの構築が図られたときの貴重な基礎資料となるものである。
条例等の分析・検討に加えて、墓埋法運用の情報共有DBシステムを構築する試験的かつ具体的な試みとして、墓地等にかかわる500余りの課題、問題点を整理・分類し、モデルとなり得るアプローチを用いて「FAQ」(よくある質問)の抽出を行った。本研究の成果の具体的な提示として、抽出されたFAQ候補から活用度の高いものを選定し、簡素ではあるが全墓協のwebサイトにて、FAQの設置を予定している。

研究分担者

小松 初男 虎の門法律事務所 弁 護 士
一木 孝之 國學院大学 法学部 法律学科 教授
大篠 則子 公益財団法人東京都公園協会公園事業部霊園課 課長
横田 睦 公益社団法人全日本墓園協会 主任研究員

事務局

安孫子 順子 公益社団法人全日本墓園協会 事務局 事務局長補佐

2 研究目的

本研究では、地方分権化により差異が生じつつある墓埋法行政運用について、条例等の分析によって問題点の整理を行う。また、墓地使用権のあり方に関する現状分析を行い、墓埋法運用の基準・枠組みを検討する。最終的には墓埋法運用の情報共有DBシステムの活用を想定するものではあるが、現段階で地方公共団体がどのように連携を図り、問題や課題解決に向けて対応しているかを明らかにすることによって、情報共有化に向けた枠組みについて一定の提言・提案を行う。

3 研究方法

① 墓地等の経営許可等に関する条例の調査・検討を行う。

-1 墓埋法行政運用における条例・細則等に対し、一定の指標のもと内容を検討しその特色を分析する。
一定の指標とは、(1)経営主体に関する条項、(2)事前協議・説明条項、(3)距離・緑地制限等の敷地に関する遵守条項、(4)大規模霊園に関する規制、(5)市長の裁量権、(6)みなし規定、(7)その他 である。
-2 上記に対し、調査検討を踏まえた考察を行う
-3 墓埋法行政運用上の規制項目の傾向分析及び規制に対する根拠の提示(表による整理を行う)

② 墓地使用権のあり方に関する現状分析を行う。

-1 墓地使用権のあり方を探るための条例分析を行う。墓地使用権の整理・分析に伴う作業は多くの時間を要するものであるため、本研究においては段階的な地域研究を行う。
-2 複数の墓地条例および施行規則において確認される「共通項」から、公営墓地において墓地使用権利が備えるべき本質的要素を抽出する。
-3 特定の公営墓地に散見される「特異項」を比較することで、地域的特性などに起因する権利の変容に関する分析、さらに運営自治体による墓地管理行政の検証を試みる。

③ 墓埋法行政運用に関する課題解決・意見交換の現状分析を行うとともに、情報の共有化に関する提言を行う。

-1 ・ 東京都と大阪市の霊園管理方法の整理及びヒアリングによる現状分析
・ 都立霊園の管理運営において、どのように情報の共有化が図れているか現状を確認し、情報共有化の必要性を述べる。
・ 上記を踏まえ、合理的な問題解決のあり方の提言を行う
-2 ・ 「web 構築による業務遂行支援補助」の仮説のもと、web サイトの運用において先進的な事例として2つの組織へのヒアリングを実施する。
・ 公営事例(稲城・府中墓苑組合)、民営事例(「いいお墓.com」)に対するヒアリングを実施し、「web 構築による業務遂行支援補助」の可能性を探る。
・ 上記を踏まえ、、web 構築による課題解決に資するための情報共有のあり方を提案する。

④ ①、②、③の議論を踏まえ、各地方公共団体における運用実態が比較可能かつ役に立つ情報を適時的確に得られる仕組みの検討・提案を行う。

(倫理面への配慮)

墓地埋葬においては、個々人の宗教的感情や価値観、地域に根ざした慣習等に左右される部分が大きい。調査・分析に当たっては、多様性や地域性等を十分に考慮し、これらを損なわないように十分に注意する。

4 研究結果考察
5 結論

最終的な墓埋法運用の情報共有DBシステムの活用への道筋として、墓埋法行政運用における条例・細則等の内容に対して一定の指標のもとに吟味検討を行いつつ、段階を踏まえながら継続的に、墓埋法行政運用における直面する課題の抽出、整理・分析をし、情報の蓄積化を図らなければならない。大都市等の連携だけではなく、同一県内、あるいは市町村規模等による連携(ネットワーク構築)により、多様性や地域性等を十分に考慮しつつも、墓埋法運用においての一定の解(方向性)が提示され、墓埋法の運用に関して効率的な対応が図られる。


参考文献:
  • 香取 一昭、『e ラーニング経営―ナレッジ・エコノミー時代の人材戦略』(2001)、エルコ
  • 「失敗まんだらとは?」http://www.sozogaku.com/fkd/inf/mandara.html 失敗知識データベースの構造と表現(「失敗まんだら」解説)、2005 年、独立行政法人科学技術振興機構 (JST)、失敗知識データベース整備事業、統括 畑村 洋太郎
  • 高橋 裕輔、上坂 克巳、奥谷 正、「国道事務所における知識の共有と利活用の方法論に関する一考察」、建設マネジメント研究論文集Vol. 11 (2004) P 69-80
  • 高橋 裕輔、大手 方如、上坂 克巳、「国道事務所における情報共有化の手順に関する一考察」、建設マネジメント研究論文集Vol. 12 (2005) P 303-310
  • 根本孝、『E‐人材開発―学習アーキテクチャーの構築』(2002)、中央経済社
  • 野中郁次郎/竹内弘高(著)/梅本勝博(訳)、『知識創造企業』(1996)、東洋経済新聞社
  • マーク・J.ローゼンバーグ(著)/中野広道(訳)、『Eラーニング戦略』(2002)、ソフトバンク パブリッシング
  • 松井秀雄、「失敗したIT プロジェクトの真の原因に迫るマンダラ図の紹介」(2015 年)、日本システム監査人協会近畿支部 第152回 定例研究会 発表資料 http://www.saajk.org/wordpress/wp-content/uploads/saaj20150515.pdf
  • ラルフ・L・キニー、ハワード・ライファー(共著) / 高原康彦、高橋亮 一、中野一夫(訳)、多目標問題解決の理論と実例(1980)、構造計画研究所

第1章 本研究の目的と意義 >>>


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