平成28年度総括研究報告書

各地方公共団体における墓地経営に関する情報共有のあり方に関する研究

平成29年3月

研究代表者 浦川 道太郎
公益社団法人 全日本墓園協会 特別研究員(早稲田大学 名誉教授・弁護士)

総括研究報告書/関連資料

3-2-2 全国各市区の条例等の内容の調査・検討

4 東京都

東京都では、東京都条例、17 の区条例、22 の市条例を検討することができた。その内容は、以下の通りである。

A 都条例

東京都においては、23 区及び市においてそれぞれ独自の条例を備えているため、都条例は、町または村で経営される墓地に適用されるものである。

(1)経営主体に関する条項
「墓地等を経営することができる者は、次の各号のいずれかに該当する者でなければならない。」とし、①公益法人、②宗教法人で、登記された主たる事務所又は従たる事務所を都内又はその経営しようとする墓地等の存する都内の町村の区域に隣接する都外の市町村の区域内に存するもの、③墓地等の経営を行うことを目的とする公益法人、を規定し、「ただし、特別な理由がある場合であって、知事が、公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認めるときはこの限りではない。」との例外条項を規定する方式をとっている。
宗教法人については、事務所の所在地の要件が、都内と当該町村のほか、それに隣接する都外の市町村まで拡張されていることが特徴的である。東京都の町村部は、他県と境界を接する場所にあることを考慮したものと思われる。
宗教法人、公益法人について見られる「永続的に墓地経営を行う目的」を要する旨の規定はない。そもそも、平成12 年12 月6 日、厚生省生活衛生局長通知「墓地経営・管理の指針について」等において指摘されているように、墓地等の経営には永続性及び非営利性が確保されるべきであるとの趣旨で、法人の経営主体につき営利法人を除外し宗教法人と公益法人に限定するものであるから、永続的な墓地経営がなされるべきことは当然の前提であり、特に規定する必要はないとの趣旨であろうか。
(2)事前協議・説明条項
許可申請前の都との事前協議の定めはない、申請予定者に対し、①あらかじめ隣接住民等への周知を図るため、規則で定めるところにより当該建設予定地の見やすい場所に標識を設置し、その旨を知事に届け出ること、②当該許可の申請に先立って、説明会を開催する等の措置を講ずることにより、当該墓地等の建設等の計画について、規則で定めるところにより、近隣住民等に説明し、その経過の概要等を知事に報告することを規定し、知事は、近隣住民の意見の申し出があり正当な理由があると認めるときは、申請予定者に対し、近隣住民等と協議を行うよう指導することができること、申請予定者は規則に定めるところにより協議の結果を知事に報告すべきこと等が定められている。
(3)距離・緑地制限等の敷地に関する遵守条項
ア 敷地に関してはこれについては、①地方公共団体を除き、墓地を経営しようとする者が、原則として所有する土地であること、②当該墓地から河川、海、湖沼までの距離は概ね20m 以上であること、③住宅等から墓地までの距離は、おおむね100m 以上であること、④高燥で、かつ、飲料水を汚染するおそれのない土地であること、という定めがなされている。
イ 構造設備等に関しては、①境界には、障壁又は密植した低木の垣根を設けること。②墓地の区域内に規則で定める基準に従い緑地を設けること。ただし、知事が、公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認める場合は、この限りでない。
これらの規定のほか、幅員1m 以上の堅固な通路、適切な排水路、ゴミ集積設備、給水設備、便所、管理事務所及び駐車場を設けることの定めがなされている。
(4)大規模霊園に関する規制
特段の定めはない。
(5)知事の裁量権
知事の権限として、許可をするに当たっては、公衆衛生その他公共の福祉の見地から必要な条件を付することができること、及び公衆衛生その他公共の福祉を維持するために土葬を禁止する地域を指定することができるとの規定がある。
(6)みなし規定
経過措置として、この条例の施行の際、現になされている申請その他の手続については、それぞれこの条例の相当規定によりなされたものとみなす旨の規定がある。
(7)その他
土葬を行なう場合の墓穴の深さは2m 以上としなければならないとする規定がある。


B区の条例の検討

17 の条例を検討することができた。

(1)経営主体に関する条項
ア すべての区が、経営主体に関する規制を行っている。墓地経営しうる者として規定されているのは、①地方公共団体、②宗教法人、③公益法人である。殆どの条例に、「ただし、特別な理由がある場合であって、公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと区長が認めるときはこの限りではない。」との例外条項が規定されているが、中野区では条例では「規則で定める特別の理由がある場合においては、墓地を経営することができるものとする。」と規定し、規則において、①合併等により墓地等の経営を紹介した場合、②法施行前から自己又は自己の親族等のために設置されている墓地を経営し又は墳墓を管理するものからその経営又は管理を引き継ぐ者、③①②に準ずる場合として区長が特に認める場合を規定している。
イ 宗教法人・公益法人の場合、登記された事務所を区内に有するものという要件が課される例が多い。主たる事務所又は従たる事務所を区内に有するものとする条例が大半であるが、杉並区は主たる事務所を区内に有することを要件としており、厳格な定めとなっている。
ウ 宗教法人・公益法人の場合、登記された事務所が区内に存在するほか、一定期間の活動実績を要件とする場合も多い。期間の定めとしては7 年間とするものが圧倒的に多く(中央区、港区、新宿区、江東区、中野区、荒川区、江戸川区)、ついで5 年間(葛飾区)、3 年間(目黒区)、2 年間(杉並区)となっている。なお、活動実績は宗教法人のみの要件とし、公益法人には要求していない例もある。
(2)事前協議・説明条項
概ね、都条例と同様の規定である。代表的な内容は①申請予定者は当該許可の申請に先立って、予定地の見やすい場所に墓地等の計画について近隣住民等の周知を図るため標識を設置すること、②近隣住民等に対する説明会を開催し、その経過を区長に報告すること、③近隣住民は申請予定日の一定期間前に意見を申し出ることができ、区長がその意見に正当な理由がある認めるときは、申請予定者は近隣住民と協議を行い、その結果を区長に報告すべきことを定めるものである。
都条例には事前協議条項は存在していないが、区の条例でもこれを定めているものは見当たらない。後述するように市の条例では事前相談条項があるのが一般的であり、これとは対照的である。ただし、台東区から保健所が作成した墓地・納骨堂の手引きの送付を受けることができたが、その中には宗教法人が申請する場合には事前相談を行なうべきとされている。他の区でも、条例での定めはないものの、何らかのかたちで事前相談を求められる場合があるのではないかと思われる。
(3)距離・緑地制限等の敷地に関する遵守条項
ア 距離制限
墓地の設置場所につき、表現に若干の違いはあるものの、以下の規定がある。これらの内容は、東京都条例とほぼ同じであり、これに準じたものと思われる。
①当該墓地を経営しようとする者が所有する土地であって、抵当権その他第三者の権利の目的となっていないものであること。②河川、湖沼、海(面している区の場合)から墓地までの距離は、おおむね20m 以上であること。③住宅等から墓地までの距離は、おおむね100m 以上であること。④高燥で、かつ、飲料水を汚染するおそれのない土地であること。
ただし、専ら焼骨のみを埋蔵する墓地であって、区長が公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認めるものについては、②、③の規定は適用しない。 イ 構造の基準・緑地制限等
構造設備等については、概ね以下の規定がある。
①境界には、障壁又は密植した低木の垣根を設けること。②墓地の区域内に、規則で定める基準に従い緑地を設けること。ただし、区長が公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認めるときはこの限りでない。
これらの規定のほか、幅員1m 以上の堅固な通路、適切な排水路、ゴミ集積設備、給水設備、便所、管理事務所及び駐車場を設けることの定めがなされている。
(4)大規模霊園に関する規制
定めている条例はない。
(5)区長の裁量権
すべての条例に、墓地等の経営等の許可をするに当たり、区長は「公衆衛生その他公共の福祉の見地から必要な条件を付することができる。」との規定が置かれている。これも、都条例にならったものといえ、許可につき区長に相当広範な裁量が認められている。
(6)みなし規定
多くの条例で、都条例によりされた許可その他の行為につき、本条例の相当規定によりなされたものとみなす旨の規定が置かれている。
(7)その他
千代田区、中央区、新宿区、江東区、品川区、北区、荒川区、足立区、葛飾区、江戸川区は、土葬を原則として禁止する旨の規定を置き、ただし書きとして「区長が公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認めて許可したときは、この限りでない。」とする規定を置いている。その他の区では、土葬を全面的に禁止する旨の規定はないが、「区長は、公衆衛生その他公共の福祉を維持するために土葬を禁止する地域を指定することができる。」旨の規定を置いている。なお、半数を越える11 の区条例で土葬を行なう場合の墓穴の深さは2m 以上とする旨定めている。
以上の通り、規定の仕方は異なるものの、都内23 内では土葬は許可があれば行なえる場合があるが、区民感情等に照らして、許可がなされることは難しいものと思われる。


C市の条例の検討

小金井市以下、22 市の条例を検討することができた。その主な内容は、以下のとおりである。

(1)経営主体に関する条項
ア すべての市が、経営主体に関する規制を行っている。多い例は、「墓地等を経営する者は、次のいずれかに該当する者でなければならない。」とし、「ただし、特別な理由がある場合であって、公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと市長が認めるときはこの限りではない。」との例外条項を有するパターンである。
イ 墓地経営しうる者として規定されているのは、①地方公共団体、②宗教法人で登記された事務所を市内に有するもの、③公益法人で登記された事務所を市内に有するもの、である。 ②③の場合には、これに続けて「永続的に墓地等を経営するもの」ないしは「永続的に墓地等を経営する能力を有するもの」という文言が付されている例が多い(日野市、東村山市、国立市、福生市、東久留米市、武蔵村山市、八王子市、立川市、武蔵野市、青梅市、昭島市など)。これは、東京都や区の条例には見られなかった特徴である。墓地経営の永続性の要請を、条例で明記したものといえよう。宗教法人や公益法人の経営実態に問題がある場合、この要件に照らしても不適切と判断される可能性がありうる。
また、②③の場合には、市内に登記された事務所を有することが要件とされるが(③の場合にはその様な要件がない場合もある)、大半は、単に登記された事務所と記載されていたり、主たる事務所又は従たる事務所という記載である。しかしながら、その事務所が「主たる事務所」であることを要求するもの(三鷹市、東村山市、昭島市、西東京市など)もある。ただし、三鷹市は公益法人に関しては事務所の所在地につき規定していない。宗教法人に対しては、極めて厳格な姿勢がうかがわれる。
ウ 条例や施行規則において、上記事務所が設置されている期間をも条件として規定する例も多い。
設置期間に関しては、10 年以上とするもの(武蔵村山市)7 年以上とするもの(東村山市、青梅市など)5 年以上とするもの(小平市、福生市、狛江市、東大和市、西東京市、昭島市、調布市など)、3 年以上とするもの(多摩市、稲城市など)がある。
さらに、当該事務所が現に活動をしていることをも条件とする場合もある(青梅市)。
エ また、立川市では、墓地等を経営するための十分な財産その他経済的基盤を有すること、という要件を定めている。
オなお、上記①~③に加えて、従前からの個人墓地の存在を尊重して、「祭祀承継に伴い、個人の既存の墓地を経営しようとするもの」にも墓地経営主体となり得ることを認める趣旨の規定をする例もある(日野市、東久留米市など)。
(2)事前協議・説明条項
ほぼすべての市で規定している。代表的な内容は、①申請予定者は、申請前に墓地等の計画につき市長と協議をすべきこと、②敷地の見やすい場所に墓地等の計画について近隣住民等の周知を図るため標識を設置すること、③近隣住民等に対する説明会を開催し、その経過を区長に報告すること、④近隣住民は申請予定日の一定期間前に意見を申し出ることができ、市長がその意見に正当な理由がある認めるときは、申請予定者は近隣住民と協議を行い、その結果を市長に報告すべきことを定めるものである。
(3)距離・緑地制限等の敷地に関する遵守条項
ア 距離制限
墓地の設置場所につき、表現に若干の違いはあるものの、以下の規定がある。これらの内容は、東京都条例とほぼ同じであり、区と同様、これに習ったものと思われる。
①当該墓地を経営しようとする者が所有する土地であって、抵当権その他第三者の権利の目的となっていないものであること。②河川、湖沼、海(面している区の場合)から墓地までの距離は、20m 以上であること。③住宅等から墓地までの距離は、100m 以上であること。④高燥で、かつ、飲料水を汚染するおそれのない土地であること。
以上については、専ら焼骨のみを埋蔵する墓地であって、区長が公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認めるものについては、②、③の規定は適用しない旨の規定を設けているのが一般的である。
但し、小平市、国立市、福生市、狛江市、東久留米市、八王子市、調布市、羽村市、西東京市など、上記②③の規定を設けていない市も多い。焼骨の埋蔵が一般的となったことから、専ら公衆衛生の見地から要請される制限を銘記する必要はないとの趣旨によるものと解される。
イ 構造の基準・緑地制限等
構造設備等については、概ね以下の規定がある。
①境界には、障壁又は密植した低木の垣根を設けること。②墓地の区域内に、規則で定める基準に従い緑地を設けること。この場合でも「区長が公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認めるときはこの限りでない。」とのただし書きが付されている場合が多い。
これらの規定のほか、幅員1m 以上の堅固な通路、適切な排水路、ゴミ集積設備、給水設備、便所、管理事務所及び駐車場を設けることの定めがなされていることは、都条例、区条例と同様である。
(4)大規模霊園に関する規制
定めている条例はない。
(5)市長の裁量権
すべての条例で、「市長は、申請に係る許可をするに当たり、公衆衛生その他公共の福祉の見地から必要な条件を付することができる。」との条項を置き、市長に広範な裁量権を与えている。
日野市の条例では、市長は、公衆衛生その他公共の福祉の見地から必要があると認めたときは、墓地等の施設の整備改善又はその全部若しくは一部の使用の制限若しくは禁止を命じ、許可を取り消すことができる旨定めている。市長の判断による使用の制限、禁止、許可の取消しまで条例で明文化した例は他の市の条例では見当たらなかった。
(6)みなし規定
区の条例と同様、条例施行日前に東京都知事に対して申請された墓地等で、施行日において許可に至ってないものは、市長に対して申請した墓地等とみなす旨の規定がなされているものが多く見られた。
(7)その他
福生市、狛江市、東久留米市、武蔵村山市、調布市が原則として土葬を禁止する旨の規定を設けているが、そのほかの条例では特に規定を設けていない。また、顕著な特徴として、土葬の場合の墓穴の深さに関する規程を設けている条例は見当たらなかった。
稲城市の条例は、墓地経営主体に対し、個人情報の重要性を認識し、個人情報の保護に関する法律及びその関連法規を遵守すること、個人の権利利益を侵害することのないよう、必要な措置を講じることを義務付ける規定を置いており、他市には類を見ない特色である。


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