平成28年度総括研究報告書

各地方公共団体における墓地経営に関する情報共有のあり方に関する研究

平成29年3月

研究代表者 浦川 道太郎
公益社団法人 全日本墓園協会 特別研究員(早稲田大学 名誉教授・弁護士)

総括研究報告書/関連資料

3-2-2 全国各市区の条例等の内容の調査・検討

11 調査検討を踏まえた考察

〈1〉経営主体に関する条項について
墓地という施設の性格上、永続性は不可欠な要件である。では非営利性はどうか、営利性と永続性は相反するものである。営利を追求する法人等の団体(以下「企業」という。)にあっては、その活動が経済的動向に左右されやすい。100 年以上変わらずに継続し続けている企業などほとんどないことに照らせば、自明であろう。また、企業は墓地経営は、必ずしも大きな利益を生むものではないから、営利団体が経営する場合、内外のステークホルダーから不採算部門としての終了や切り離しを求められる場合があり、それに抗しがたい事態が起こりうる。企業が行なう文化活動や社会貢献活動の継続は、ひとえにその企業の業績が好調であること、あるいは安定した財産基盤が存在することが不可欠である。
また、墓地の経営者は埋蔵、収蔵等の求めを受けたときは、正当な理由がなければこれを拒んではならないものであり(墓埋法13 条)、それ自体公益的なものである。また、多くの使用希望者に対応できるようにするためには、高額な費用を設定すべきではない。このようなことから、経営主体には非営利性とともに公益性も確保されなければならない。
以上の観点からすれば、墓地の経営主体としては、地方公共団体、墓地経営を主たる目的とする公益法人、宗教法人がふさわしい。また、これとともに、既に墓地を管理している地方自治法260 条の2 に規定する地縁団体、墓埋法附則第26 条により墓地経営を受けたものとみなされる者等、地域の必要に応じて経営主体性を認めるべきであろう。また、それらの既存の規定では対処できない場合を想定して、「市長が公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認め、かつ特別の理由がある場合」等の裁量規定を置くことも検討されるべきである。
宗教法人や墓地経営を主たる目的とする公益法人に関しては、市内に事務所を有することとその活動年数等が条例に規定される場合が多い。宗教法人に関しては、墓地開設者となっていることが名義貸しであることがある。宗教法人の内部の調査は、信教の自由との関係で難しい場合が多く、それを補う客観的な基準を設けることは、これを阻止する一つの手段として、事務所の所在地や活動年数を定めることは有用である。しかしながら、名義貸しを排除すべきことは、墓地の永続性や経営の適正化にとって必要なことである。外形的な基準のみではなく、永続性の確保の観点から、団体内部の管理体制や財産基盤等につき、条例の施行規則や要綱において十分な規定を設ける必要がある。
墓地経営を主たる目的とする公益法人については、事務所に関する規程は措くとして、活動年数をあまり厳格に規定すると新規の公益法人を閉め出すことになりかねない。活動年数に関しては、寛大な規定であっても良いのではと思われる。
なお、公益法人に関しては、公益財団法人に限定して経営主体性を認める例があるが(広島県等)、財産基盤があり、組織としてしっかりしたものであれば、特に排除する理由はないのではないかと思われる。

〈2〉事前協議・説明条項について
各地の条例では、申請予定者に対し、①市長との事前協議、②近隣住民への墓地計画の周知を図るための概要を記載した標識の設置、③近隣住民に対し説明会を開催し、当該造成計画に関し理解を得るよう努めなければならないこと、等を規定する例が多い。特に大都市近郊において顕著である。
墓地の経営は、周囲の環境や周辺住民の生活環境に及ぼす影響が大きい。役所においては、その計画をいち早く知り、早期の段階で適切に対処する必要があり、また、近隣住民らの意向も尊重すべきであるから、上記のような事前協議や事前説明を規定することはやむを得ないところであろう。ただし、近隣住民からの同意書を要求したり、住民の意見を反映して計画を変更するなどの措置をとっている申請者に対し加重な負担を強いることも問題である。墓地の必要性と周囲に及ぼす影響等を勘案しつつ、市区において事案に即した対応が取れるような規定を設けることが望ましいのではないか。

〈3〉距離・緑地制限等の敷地に関する遵守条項について
ア 敷地の所有権条項
経営主体の財政基盤が健全であること、墓地の永続性、権利の安定性等観点から、墓地の敷地は経営者の所有であること、抵当権等の担保物件が設定されていないことは極めて重要である。条例で明記していない市区も未だ多く見られるが、規定しておくべき事項である。
イ 距離制限
墓地と住宅、学校、病院その他の公共施設からの距離制限を設ける例は多い。100m、110m といったところが主流であるが、200m、300m とする例もあり、宮崎市のように500m とする例もある。墓地が嫌忌施設として認識されることはやむを得ないところであるが、障壁又は密植した垣根を設けることで、ある程度の対処は可能である。また、焼骨の埋蔵が主流である今日、あまり長距離を定めることの必要性には疑問を禁じ得ない。
また、河川、海又は湖沼に関しては、単に位近接していないこととする程度にとどめ、設置場所につき、飲料水を汚染するおそれのない土地であることとする規定で対処しても目的は達しうるのではないかと思われる。
ウ 構造の基準・緑地制限等
墓地の構造設備については、前述した通り障壁又は密植した垣根を設けること、墓地内の十分な幅員のある道路の設置や、排水設備、墓参者向けの設備を規定する例が多い。また、周囲の環境との調和を求める趣旨の規定を設ける例も少なからずある。
一定の緑地の確保を求める規定は、全国的に上例においてあまりなされていないことは意外であった。環境保全のため、大規模墓地でなくとも、一定の緑地確保の規定は必要ではないかと思われる。その他の施設を含め、公衆衛生の確保やや周辺住民や土地利用者との間の公共の福祉の維持という観点から、必要かつ合理的な規定がなされるべきである。

〈4〉大規模霊園に関する規制について
大規模霊園に関しては、広さに応じた緑地割合を定める例があり、15%から30%程度を定めることが多いようである。また、通路に関しても一般的は墓地に比べて幅員や路面等の整備を規定する例が多い。

〈5〉市長の裁量権について
「この規則に定めるもののほか、必要な事項は、市長が定める。」との規定を定めている条例は少なくない。しかしながら、条例に関する施行細則的な規定である場合は別として、墓埋法の規定を市の墓地行政において具体化した条項として制定することは、国民の権利義務に直接的に係わることであり、本来地方議会を通じて行なうことが妥当ではないかと思われる。市長にあまりに広範な規定の設定権を認める趣旨であるならば、その適法性に疑問の余地が残るであろう。
また、「市長は、必要があると認めるときは、当該職員に墓地等に立ち入り、その施設、帳簿、書類その他の物件を検査させ、又は墓地等の管理者に必要な報告を求めることができる。」とする規定も、少なからず認められる。しかしながら、墓埋法(18 条1 項)が首長に立ち入り調査権を認めるのは火葬場のみであり、墓地、納骨堂については、管理者から必要な報告を求めることで立ち入り調査権に代えている、との見解が主流である。上記条項は、法律の範囲を超える規定である点で適法性に疑問がある。

〈6〉みなし規定について
市区の条例に、「この条例の施行の日前に、〇県条例の規定により〇県知事が行った墓地等の経営の許可等の処分その他の行為は、この条例の相当規定により市長が行った処分その他の行為とみなす」旨の規定がどの認められるか注目していたが、意外なほど設けている例は少なかった。
存在していなくとも、当然の事柄であるともいえるが、たとえ注意的な規定にすぐなくとも、従前の許可や処分の効力は明確にしておくべきではないかと思料する次第である。

〈7〉その他
埋葬を一切禁止する旨の条例もあるが、それを明記せず、埋葬する場合の墓穴の深さ、あるいは棺(ないしは死体)の上部までの土の厚さを規定する例が多く認められる。深さについては、1.5m、2m、1.8mという規定があり、土の厚さは1m ないしは1.5m と規定されている。
また、各地において特色のある規定が認められるが、長野県諏訪市条例は散骨場を設けることを定めており、熊本県八女市条例は合葬墓を設けることを定めている。いずれも、今日の墓地利用の状況をいち早く捉えた規定として特筆に値するものと思われる。


3-3 公営墓地条例等が定める墓地使用権に関する地域的研究 >>>


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