平成28年度総括研究報告書

各地方公共団体における墓地経営に関する情報共有のあり方に関する研究

平成29年3月

研究代表者 浦川 道太郎
公益社団法人 全日本墓園協会 特別研究員(早稲田大学 名誉教授・弁護士)

総括研究報告書/関連資料

3-3 公営墓地条例等が定める墓地使用権に関する地域的研究

國學院大學 一木孝之

3-3-1 序論
(1)研究目標
公営墓地における墓地使用権のあり方に関しては、地方自治体制定の条例および施行規則に定めがあり、その内容には一定の共通性が認められる一方で、詳細上の差異が存在するものと思われる。この場合において、複数の墓地条例および施行規則において確認される「共通項」から、公営墓地において墓地使用権利が備えるべき本質的要素を抽出したい。また、特定の公営墓地に散見される「特異項」を比較することで、地域的特性などに起因する権利の変容に関する分析、さらに運営自治体による墓地管理行政の検証を試みる。

(2)研究手法
上記研究は、最終的に、日本全体の公営墓地に関する条例および施行規則の網羅的分析によって完成 されることになるが、今年度は、以下の方法により、段階的な地域研究を行った。

① 対象地域の決定
第1 に、今年度の目的を、「東日本の公営墓地における墓地使用権のあり方」に設定した。とりわけ時間的制約の大きい中で、全日本に関する総合的研究を将来的に完成させるためには、東日本(北海道、東北、関東および中部〈北陸・東海〉地方)と西日本(近畿、中国・四国および九州・沖縄地方)のそれぞれにおける墓地使用権の態様を分析し、そこで得られる成果を統合または比較することが、最も効率的と考えられるからである。
第2 に、東日本23 都道県のうち、調査対象として、北海道、宮城県、福島県、東京都、新潟県、長野県、愛知県を選定した。これは、もっぱら研究上の時間的制約との関係で、東北、関東および中部地方については、大都市を擁する県であり、かつ近年の震災発生(または予想)との関連が深いものを優先的に調査するとの方針によるものである。

② 検討項目の設定
上記都道県内の公営墓地に関する条例および施行規則を分析するに際し、(i)「使用権の発生」(ii)「使用料」(iii)「管理料」(iv)「使用権の移転」(v)「使用許可の取消し」および(vi)「使用権の消滅」の項目を設定した。これらは、使用権者の資格、使用権の成立から消滅に至るプロセス、ならびに墓地使用に対する墓地管理者の関与における「共通項」と「特異性」を検討する際の視点となる。
なお、使用権者が負う義務といった「使用権の内容」については、(vii)「備考」に特記事項として採録することにした。

③ 整理作業の実施
上記選定7 都道県の条例および施行規則を、所定7 項目に従って整理し、別表のどおりまとめた。整理の対象となる条例および施行規則は、平成26 年度研究において入手したものによった。

3-3-2 分析その1 ―東日本の公営墓地に関する条例等における墓地使用権の規定方針
墓地使用権は、他人の土地の利用権としての性質上、民法が定める地上権(265 条以下)または土地賃借権(601 条以下)に類似するが、焼骨埋蔵という特殊な目的や、祭祀主宰との密接なかかわりといった特異性を備える。加えて、使用権の対象が公営墓地である場合には、地方自治体、とりわけ首長(知事、市長など)との関係を前提とするため、純粋に私法上の契約および権利義務という枠組みを採用することが困難になる場合があり得る。

(1)使用権の発生
使用権は、申請を受けた知事、市長(ほか代表理事など)の許可に基づき発生する。申請手続に、公募(および抽選)が先行する場合がある(3(4)③参照)。発生した使用権の行使、ならびに承継その他手続のために、使用許可証が交付される。使用権の対象である墓地の区画が条例等で定められる場合には、1 使用権者(または1 世帯)1 区画が原則であり、複数区画の使用が認められる場合は少ない(3(4)②、③参照)。
使用権者資格の核心は、「墓地所在地域内に特定の期間住所(または本籍)を有すること」である(現実の居住が要求される場合もある)。墓地の公営性からして、地域住民による使用への限定が当然とされるなか、住所要件が明記されない場合があることは注目に値する(3(2)①、(4)①参照)。もっとも、申請時の地域内住所が必須とされるとしても、第1 に、申請後または許可後の転居を不問とし、あるいは例外として位置づける方向性はありうる(3(2)①、③、(4)①、②参照)。第2 に、市外居住者の申請に対しては、将来の地域居住希望者の使用を例外的に認める条例(3(2)②参照)もあるが、むしろ、市内在住管理人の選任を条件に許可する場合が多い(3(4)①、②参照)。
使用権許可条件として、以上に加えて、「祭祀主宰者であること」や「親族が死亡したこと」が要求されることがある。ほかにも、「他の埋蔵施設の使用許可を受けていないこと」(3(3)参照)や、「許可証の発行から3 年以内に墳墓ができること」(3(4)③参照)が挙げられる場合もあり、将来の必要性に備えた墓地の確保を排除する方針があり得るものと考えられる。その一方で、使用権の許可に際しては、「市長の承認」を理由とする例外が設けられる場合が数多くみられる。

(2)使用料(永代使用料)の納付時期
墓地使用権の対価である使用料(「永代使用料」と明記されることがある)の納付時期に関しては、申請時、許可時、または市長などが定める日に分かれる。許可証の発行が、使用料納付と引き換えになされることもある(3(2)①参照)。このことは、とりわけ公募(および抽選)の有無との関係とあわせて検討すべきものであるように思われる。なお、全額納付に対する例外的措置としては、貧困、災害といった特別事情や市長が認める場合に減免をみとめるもの(3(1)、(2)①、(3)、(4)③参照)、または例外的な分納を定めるもの(3(2)②、(3)、(4)①、②参照)に分かれる。使用料の金額は、(墓地ごとの)一律設定、区画ごとの決定、または面積に応じた算定のいずれかの方法によって決まる。市外居住者の使用その他例外的な場合における増額が定められることが少なくない(3(1)、(2)①、②、 (4)②、③参照)。
既納使用料は、不還付が原則であるが(ただし3(2)①参照)、多くの条例において、墓地が特定期間(多くは3 年)不使用のまま返還される場合において、全額または一部の還付が規定されている。まさに使用の対価であることからして当然であり、むしろ、例外的還付規定をほとんど持たない地域の特殊性が際立つ(3(4)②参照)。
なお、使用料の規定を持たない条例等が散見された(3(1)、(4)③参照)。この場合において、明文にあらわれない別の運用によって、対価が事実上徴収されているのか、それとも、(民法上の使用貸借〈593 条以下〉のような)完全に対価なしで墓地使用が認められているのか、なお調査が必要であるように思われる。

(3)管理料の徴収
公営墓地全体の清掃や整備のために徴収される管理料の徴収については、使用料と同様に許可時の前納とされることもあるが(3(1)参照)、年度払いが通常である。金額は、使用料と同様であり、面積に応じた算定よりも、一律設定または区画ごとの決定によることが多い。管理料に関しても、貧困その他特別事情による減免が認められる(3(1)、(2)①、②、(3)、(4)①、②参照)。
既納管理料も、不還付が原則とされる。例外的還付規定は、多いとはいえない(3(1)、(2)②、(3)、(4)①参照)。墓地使用の対価である使用料と異なり、墓地全体の整備にかかわる管理料については、徴収後の還付必要性が高くないものと考慮されている可能性がある。
その一方で、管理料に関しては、具体的規定を持たない条例等の多さを特徴として挙げることができる(3(1)、(2)①、②、(4)②、③参照)。個別の墓地の維持管理責任は使用権者にあるとして、墓地全体の運営および管理費用が、使用権者からの金銭徴収なくしてどのようになされているのか、さらに検証を要する問題といえる。

(4)使用権の自由な譲渡や墓地の転貸
使用権の自由な譲渡や墓地の転貸は、一部の例外(使用権者が寺院である場合など、3(4)②参照)を除いて認められない(明文で禁止される場合と、使用権取消事由として位置づけられる場合に分かれる)。
その一方で、使用権は、使用権者死亡の場合に、祭祀承継または相続のかたちで、祭祀承継者、親族または縁故者の申請を受けた市長等の承認により移転する。その際の手続として、申請書の提出のみで足りるとされる場合はわずかであり(3(2)②、(4)③参照)、多くの場合には、使用許可証、申請者の住民票の写し、使用権者と申請者の関係を証明する書類(承継原因証明書類、戸籍謄本または抄本など)、祭祀主宰者であることを証明する書類その他必要と認められる書類の添付が求められる。

(5)使用権の取り消し
使用権は、(あ)「維持・管理の放置が特定期間継続していること」、「使用権者が死亡し、または特定の期間所在が不明である場合において、承継人等が不在であること(使用権者が法人である場合において、解散後承継申出がなされないことを含む)」といった墓地の不使用、(い)「不正手段により許可が取得されたこと」、「使用料が完納されないこと」、「管理料未納が特定期間継続していること」、「許可目的外に使用されていること」、「使用権が譲渡され、墓地が転貸されたこと」および「条例、規則または指示に違反したこと」といった墓地の不正使用、ならびに(う)「公共・公益上の理由があること」を理由として、市長等により取り消される。上記取消事由の組合せが、地方および個別公営墓地の特徴を 形成する。

(6)使用権の消滅事由
使用権の消滅事由として共通するのが、「墓地が不用となったこと」である(このほか、「使用権者の死亡または所在不明、ならびに祭祀主宰者等の不在」を、取消事由ではなく消滅事由に含める条例等もある)。使用権者は、不用墓地を返還するに際しては、原状回復を義務づけられる。市長は、原状回復作業を代行したうえで、使用権者から代金を徴収する一方で、状況により現状返還で足りる旨を承認することができる。

(7)墓地使用に関して
なお、墓地使用に関しては、焼骨埋蔵用に限定される場合が大半であり、土葬や死体の埋蔵が規定によって禁止されることもある一方(3(2)②、(4)①、②参照)、焼骨のみならず死体の埋蔵を許容する墓地もある(3(1)参照)。使用期間は、無期限とするもの(3(2)②参照)、または施設ごとの有期を定めるもの(3(3)参照)に分かれる。
このほか、条例等のなかには、墓地の維持管理責任が使用権者にあるとして、「誠意をもった善良な管理義務」を要求し(3(2)②参照)、故意または過失により市の施設を破壊した場合の賠償責任を定めるもの(3(4)③参照)、市長には必要に応じた墓地変更(返還・移転)権限があり(3(4)②参照)、災害その他に基づく損害に対する免責を明記するもの(3(4)③参照)がある。公営墓地の使用にかかわる当事者の権利義務の詳細解明については、今後の整理・分析作業にゆだねたい。


3-3-3 分析その2 ―東日本の各地方における墓地使用権 >>>


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