4-2 情報の共有化を実現するWeb サイト構築に向けて-業務遂行支援の可能性を探る-
公益社団法人 全日本墓園協会 事務局
前項で、安定して適正な業務運営を行うためのノウハウや情報を交換する「場」として、一部事務組合、広域連合といった広域行政による連携が必要であることを明らかにした。
今回の研究では、業務遂行や支援補助に役立つ「情報共有の仕組みづくり」があれば、地方自治体の方が墓埋法の管理運営を行うにあたって直面する様々な問題の解決につながるのではないか、そういった仮説を立てている。
本項では、ナレッジマネジメントの考え方を援用する形で、「情報共有化を図るためにweb サイトを構築することによって、一定の業務遂行、支援補助が可能である」という仮説のもとに、先進事例として2 つの組織(①公営事例「一部事務組合による、稲城・府中墓苑組合」、②民間事例「日本最大級のお墓のポータルサイト、「いいお墓.com」」)に対してヒアリングを実施することとした。
このヒアリングにより、2 つの組織が、web サイトを構築することで、どのように墓園の管理業務に関する問題の解決を図っているのか、その実態を明らかにする。それによって、業務遂行、支援補助としてのweb サイトの可能性、及びその望ましいあり方を明確化することを目的としている。
(1)2 つの組織へのヒアリング
事例1:公営 稲城・府中メモリアルパーク(稲城・府中墓苑組合)
- ① 公営 稲城・府中メモリアルパークの概要
- 稲城・府中墓苑組合は、稲城市と府中市で構成する一部事務組合(特別地方公共団体)である。約15年をかけて協議し、整備を進め、平成27 年(2015 年)9 月「公営 稲城・府中メモリアルパーク」の開設に至り、同年墓地使用者の募集を開始している。
「公営 稲城・府中メモリアルパーク」(以下、稲城・府中メモリアルパークとする。)は4つの形態の墓地と、通夜・告別式・法要を執り行うことができる葬儀・法要施設「南山ホール」をもつ、新しい公営霊園である。
稲城・府中墓苑組合は、Web サイトの構築について、霊園オープン前の準備段階から、“「誰でも使いやすい」ホームページを目指す”と同時に“情報を探しやすいホームページの作成に努める”というサイト作成の「基本的な考え方」を示している[19]。広域行政の連携の事例であることに加えて、「業務遂行支援補助及び問題解決のためのweb サイト構築」についての先進事例(公営事例)として、霊園オープンにあたって、どのようにweb サイトの設計を行ったのかを中心にヒアリングを行った。
- ② ヒアリング実施日等
日時: 平成29 年3 月28 日(火)13 時30 分~15 時30 分(ヒアリング:13 時30 分 ~ 14 時40 分、霊園見学:14 時45 分~15 時30 分) 場所: 稲城・府中メモリアルパーク 洋室 ヒアリング対象者: 事務局長 内田 宏康 / Web 管理担当:吉本 忠幸 訪問者: 全墓協 事務局:安孫子 順子 内容: 墓埋法運用における情報共有のあり方の観点からの貴霊園のweb 構築等に関して
- ③ ヒアリング概要
<サイト作成の基本姿勢について>
- 行政は常に HP の設計を研究しており、行政が発信する情報について「わかりやすく伝える」というのは基本的な姿勢である。そういう土壌のなかで職員が(稲城市・府中市から)派遣されており、組合のホームページ設計にあたっては「分かりやすさ」をポイントに取り組んでみた。
<サイト設計について>
- 9 月のオープンまでに行うべき作業は山積しており、web サイト構築の事前準備(カテゴリー分類等)にかけた時間は5 月~6 月(実質2 か月ぐらい)であった。墓所を求めたい方用の冊子「申込のしおり」を基本にし、この内容をweb 設計に組み込んでいる。
- 27 年9 月のオープンに合わせて、設計段階で受け手(ユーザー)にとって「視覚的にも分かりやすく見やすく」をポイントにし、全面リニューアルした[20]。オープンすることで、墓地と法要施設の実際の使用者が出てくるため、使用情報(申請関係ではどういった手続きが必要かなど)をわかりやすく伝えたいと考えた。その際、墓地と法要施設の使用者と業者(葬儀業者、石材業者等)が必要とする情報は若干異なることもあるので、HP の入り口を使用者向けと事業者向けに分けたほうが分かり易いと考えた。
- 大きい枠組みとしては墓地と葬儀法要施設、組合議会関係、交通アクセス[21]である。
- web 階層の中にはいっていくと、4つの形態の墓地(芝生墓地、普通墓地、合葬式墓地、樹林式墓地)がある。自分が使用する墓地のところ入っていくと、それぞれの墓地に合わせて必要な手続き書類をダウンロードできるようになっている。そして、パッと見たときに一目でわかるような設計にもなっている。
- 墓地をオープンした当初は、手続き関係(例:墓地に埋葬する、改葬する等)はほとんどないわけだが、墓地の使用者が決定し、それに合わせて順次必要な情報(様式を含む)を増やしていった。
<情報共有、業務遂行支援補助の観点から>
- 4 つの墓地形態に対応した手続き書類一覧を整えたことによって、電話応対する職員にとっても、使用者にとっても、業者にとっても必要な情報を得やすく、不要な説明の発生を抑えることにつながっている。
- あまり細かい分類をせず、4 つの墓地形態にあわせて情報を整理したので、あとで情報を追加する場合でもわかりやすくなっている。
墓地形態 → 使用案内 となっているし、
使用案内 → 墓地形態 となっているため、どちらから入っても必要な情報にわかりやすくたどり着けるようになっている。
<業務に必要な知識・情報を身に付けるために行っていること等>
- 2-3 年で異動するため、1 つの仕事を長くというわけにはいかないところがあるが、どこの部署に異動になったとしても、その業務を行うにあたっては「プロ」として仕事をするために、職場内研修、OJT などで力をつけていく。
- 霊園オープンにあたっては、先進事例として、横浜メモリアルパーク、東京都の小平霊園の見学を行った。(霊園の管理運営以外では)広域での連携はあるが、当霊園は一部事務組合が運営しており、最近では珍しい事例でもある。そのため、オープンしてからは他都市からの見学があり、現場レベルでの情報交換などが行われた。当霊園からも、他都市の霊園見学に行き、学んでいる。
<その他-ヒアリングで出された要望、ヒアリングから得た知見等->
霊園や役所など発信側は使用者に対して、わかりやすく見やすいサイト設計を基本姿勢として、適正な対応や業務の効率化を図っている。霊園オープンにあたって、当組合が手続き書類一覧をサイトに整えたことによって、窓口業務担当者、使用者、業者にとっても、不要な問い合わせを減らすことができ、通常業務がスムーズに遂行されていることを確認できた。
ただし、霊園の管理業務を行っている職員は日常業務は問題なく行っているものの、改葬手続きなど特殊な対応が必要なケース(例:他の地方からの改葬、屋敷墓からの改葬等)では、窓口担当者が専門的な問い合わせに対応するための体制(相談窓口対応、web サイトにおけるFAQ の設置等)が必ずしも十分に整えられてはいない[22]。
ヒアリングを行った際、担当者から「最終的には、墓埋法にそっていなければならないわけである。例にあがった改葬については、いろいろなケースがある。最終的には、墓埋法の解釈はこうだから、このケースの場合このようになるといった事例の積み重ねが必要なのではないか。そういった手引集のようなものがあると参考になる」という声が聞かれた[23]。
以上のことから、今回の研究を契機に、墓埋法に則した業務遂行支援補助の機能として、専門的な知見を要する事例集といったものを、簡便な方法で入手できる仕組みの提供(例えば、web サイトにおけるFAQ の提供)の必要性が指摘された。
また、他の霊園見学を行うことによって、現場レベルでの情報交換が行われていることも明らかとなった。実務者同士が対面して「場」を共有することによって、情報交換、知識化を図っていることを確認できた。
事例2:日本最大級のお墓のポータルサイト「いいお墓.com」(株式会社 鎌倉新書)[24]
- ① いいお墓.com の概要
- 月刊『仏事』の出版を行っている鎌倉新書は、業界知識とネットワークを活かし、2003 年にお墓の総合情報サイト「いいお墓.com」を立ち上げ、2011 年、2014 年に大きなリニューアルを行っている。
現在、全国7,600 件の霊園・墓地の詳細情報を掲載しているため、墓地・霊園を簡単に比較することが可能であり、日本最大級のお墓のポータルサイトとなっている。
このポータルサイトでは掲載された情報に対し、「お墓をさがす」「 お墓を知る」「 お墓をたてる・引越す」という大きな枠組みの設定のほか、「地域」「路線・駅名」「地図」から希望の墓地・霊園を検索できるなど、ユーザーが必要な情報を得られる工夫がなされている。そのほか、コールセンターのお墓専門相談員がお墓の選び方や紹介の相談にのっている。こういったポータルサイトが機能するためには、どういった工夫がなされているのか等、「web サイト構築による問題解決」の民間事例としてヒアリングを行った。
- ② ヒアリング実施日等
日時: 平成29 年3 月29 日(水) 14 時~15 時半 場所: 鎌倉新書 会議室 ヒアリング対象者: いいお墓.com 担当者:田中 哲平 /コンテンツ事業部担当者:小林 憲行 訪問者: 研究分担者:横田 睦 / 事務局:安孫子 順子 <ポータルサイトが機能するための仕組みとは>
- 「お墓をさがす」「 お墓を知る」「 お墓をたてる・引越す」という大きな枠組みから、ユーザーが必要な情報を得られる工夫がなされている。また、「よくある質問」としては、お客様センターへ寄せられるお墓にまつわる様々な質問や、トラブル事例をまとめていて、「トラブル」「費用」「承継」「墓石」「しきたり・慣習」「改葬」「石材店」「建替・修繕」「納骨堂・永代供養墓」「その他」に分け、キーワード検索を行えるようになっている。また、具体的な質問から確認できるように設計されている。
- (日本最大級の)ポータルサイトは web 構築だけで成り立っているわけではなく、コールセンターのお墓専門相談員、社内の社員、現地担当者との連携がある。例えば、コールセンターの相談員が即答できない「わからない」問題については、社内の社員、現地担当者など、その専門知識をもっている者に尋ねることで解決している
- 外部に向けたポータルサイトと、内部でナレッジを蓄積し利活用するための仕組みがある。内部のナレッジ共有化のためのシステムは、双方向に情報を書き込みできるもので、内部で管理運営している。
- コールセンターの対応内容は音声データとして蓄積し、それをナレッジとして活用することができる。
<ユーザビリティを高める工夫>
- 利用者へのアンケート
- 利用者のクチコミ利用(2016 年開始)
- ユーザー満足度の調査
→ コールセンターに入ってくる声を1 週間に1 度、社内で検討し、それを反映させる
→ 検討結果を反映させるだけでなく、それが良かったのかを検討し、さらにそれを反映させる(丁寧な検討体制) - これらの工夫によって、かなり丁寧な web 設計を行っている
→ 例えば、ユーザー満足度と成約率 などが、「いい霊園」の評価の1つとなる。
<その他-ヒアリングから得た知見等->
ポータルサイトが機能するための仕組みとしては、表から見えるweb 構築だけで成り立っているわけではなく、コールセンターの相談員、あるいは現地で業務担当者、内部でシステムの管理運営が連携しながら、内部における情報の共有化によるナレッジの蓄積を行い、サイトの改善、更新を行っていることが確認できた。
(2)考察
事例1(公営事例)から、「日常業務は問題なく行っているものの、改葬手続きなど特殊な対応が必要なケースについては、専門的な問い合わせに対応するための外部体制(相談窓口対応、web サイトにおけるFAQ の設置等)が十分に整えられてはいない こと」「最終的には、墓埋法の解釈はこうだから、改葬手続きなど、このケースの場合このようになるといった手引集等による事例の積み重ねがあると参考になる」との指摘があった。
また、大規模なポータルサイトを運営している事例2(民間事例)からは、墓埋法の運用のために、行政窓口などの担当者が利用できる情報共有のあり方を考えるのであれば、FAQ の設定、更新だけではなく、過去のQ&Aの蓄積を電子データ化しそれを簡便に検索できるシステムを作ること、専門家が答える電話相談の設置などが必要なのではないか。ただし、相談に回答できる人員を育てることなど、相互の連携やそのシステムの維持管理が必要である。つまり、データベース機能をもつweb サイトを運営するためには、いわゆる資源(ヒト・モノ・カネ・時間)が必要であり、継続的に維持管理していく必要がある、という指摘があった。
今回の研究においては、業務遂行支援補助の第一歩として、簡便な仕組みによる「よくある質問(FAQ)」の設定を研究成果として示すことを予定している。これは「事例の積み重ね(事例集)」に対応するための第一歩である。そのための具体的な作業として、FAQ 設定のためのキーワード抽出について、事項において述べる。
[19] 公営 稲城・府中メモリアルパーク、このサイトについて:http://www.if-boenkumiai.jp/aboutweb/index.html
[20] 組合の設立(平成24 年5 月)に伴いサイトは立ち上げたが、組合の情報、議会の情報、工事の進捗状況ということを写真で伝えるといったことで内容としてはさほど多いものではなかったという。発信側としては、認知度が低いので、情報としてのインパクトを高めるために墓地と葬儀場があることを写真等で展開する必要があったという。
[21] 土地区画整理地域であり、カーナビでも詳しくは出てこない場所でもあり、交通案内は重要な要素であるとのこと。
[22] 例えば、全墓協が平成元年から実施している「墓地管理講習会」では墓地管理に必要な知識の習得ができるが、年に1 回の開催のため、平成24 年の地方分権化により、地方自治体関係者から急増した申し込みに十分対応できる体制とはなっていないといえよう。
[23] 具体的には、改葬一つを例にとっても、民間霊園から移す、お寺から移す、共同墓地から移すなどさまざまなパターンがある。共同墓地の場合だとそこの管理者は誰なのか、改葬許可証は何をもって出せるかなどは、改葬を希望している本人にとっても、役所の担当者、改葬によって移される側にとっても、共通に必要な情報である。改葬手続は、手続きのなかでも複雑というか手間がかかるということがあるので、改葬のいろいろな事例があるだけでも役立つのでは、といった声である。
[24] いいお墓.com https://www.e-ohaka.com/
4-3 データベース構築を想定した、墓地の運営・管理等に関する質問と回答の整理方法 >>>