平成28年度総括研究報告書

各地方公共団体における墓地経営に関する情報共有のあり方に関する研究

平成29年3月

研究代表者 浦川 道太郎
公益社団法人 全日本墓園協会 特別研究員(早稲田大学 名誉教授・弁護士)

総括研究報告書/関連資料

第4 章 情報共有による墓埋法行政運用に関する課題解決のための提言

公益社団法人 全日本墓園協会 事務局

本研究は、健発0830 第1 号「地域の自主性及び自立性を高めるための改革を推進するための関係法律の整備に関する法律の施行について」に拠って、墓埋法が都道県知事の職掌を離れ、800 余りの市及び特別区、さらには地方自治法に基づいて「町」や「村」に、その権限が移行されたことが大きな背景となっている。
第2 章でも述べているが、その結果、墓埋法の運用が新たな受け皿となった「市」「特別区」、「町」「村」では、この行政運用の実務にあたる担当者にとって、適性に業務遂行を行うための支援体制が組織的、あるいは人的にも十分に整えられている状態であるとは言い難いケースが少なくないことが窺える[10][11]。
墓埋法行政の管理運用にあたっては、都道府県、及び政令市など、一部の行政組織を除いて、小さな「市」「特別区」「町」「村」といった行政機関では単独で「墓埋法の安定的で適正な運用」を図るには、ノウハウの蓄積を含め、より厚い業務支援体制の構築が必要であるといえよう。現状では、業務遂行支援体制構築のために改善すべき課題があることは明らかである。
本研究によって、地域性や多様性等について地方によって特色を十分に考慮しつつも、墓埋法運用においての一定の解(方向性)が提示することで、墓埋法の運用に関して安定して効率的な対応が図られることが期待される。そこで本研究においては、ナレッジマネジメントの概念を援用することで、地方公共団体等の連携(ネットワークの構築)[12]の必要性を明らかにするとともに、ノウハウを含めた情報等を適時的確に利活用されるための仕組みの提案を行うものである。
ここで述べる地方公共団体等の連携(ネットワーク構築)は、①「場」の共有としての広域行政による連携と②web による業務遂行支援補助としてのデータベースシステムの2 つを指している。そうした方法によって、情報の共有化と地方公共団体等の連携を図ることで、各地方公共団体では、相互で交わされた情報の蓄積がなされ、業務に反映することが期待できる。
本項では、まず、①「場」の共有による広域行政による連携については、墓地等の運用と管理に携わっている団体のうち、比較的規模が大きく、都道府県(含・政令市)とも密接な関係にある2 つの組織をヒアリングの対象とし、そこから得た知見を述べる。ヒアリング対象の1 つである「公益財団法人 東京都公園協会」については、「都立霊園」の管理運営を例として、どのように情報共有を図り、業務に反映させているのかについて、4-1-2 において、具体的な取り組みをまとめる。
次に②「web 構築による業務遂行支援補助」の仮説のもと、web サイトの運用において先進的な事例として2 つの組織(公営事例、民間事例)にヒアリングを実施し、そこから得た知見をまとめる。


[10] 「地域における墓地埋葬行政をめぐる課題と地域と調和した対応に関する研究」厚生労働省厚生労働科学研究費補助金 厚生労働科学特別研究事業 平成25 年度総括・分担研究報告書
[11] 「墓地行政をめぐる社会環境の変化等への対応の在り方に関する研究」厚生労働省厚生労働科学研究費補助金(健康安全・危機管理対策総合研究事業) 平成26 年度総括研究報告書
[12] 本研究では、ナレッジマネジメントの概念を援用しており、ここで述べる地方公共団体等の連携(ネットワーク構築)は、「場」の共有としての広域行政による連携とweb による業務遂行支援補助としてのデータベースシステムの2 つを指している。
4-1 「場」の共有による知識化について

公益社団法人 全日本墓園協会 横田 睦 / 事務局

本項では、墓地等の運用と管理に携わっている団体のうち、比較的規模が大きく、都道府県(含・政令市)とも密接な関係にある「公益財団法人 東京都公園協会」「一般財団法人 環境事業協会(大坂市)」の2 つをヒアリングの対象とした。この2 つの法人では、墓埋法に則った具体的な墓園の管理・運営のノウハウなどを各担当者が業務に反映させるため、どのように情報の共有化を図っているかを、ヒアリングを通して明らかにする。
なお、事例1、事例2 のヒアリングの詳細については、別途、関連資料として示している。


4-1-1 2つの組織のヒアリングから探る「場」の共有による知識化について
(1)2 つの組織へのヒアリング

事例1:公益財団法人 東京都公園協会[13]

① 東京都公園協会の概要
東京都公園協会(以下「公園協会」という。)は、昭和23 年2 月に任意団体として発足し、昭和29年2 月には財団法人として設立許可され、設立から60 年が経っている。昭和60 年(1985 年)を端緒とした都立公園・霊園の管理受託以来、公園協会は様々な施設を、各公園等の特性に応じて的確に管理運営し、多様な緑の管理運営経験を蓄積するとともに、技術・技能やすぐれた運営スキルを有する人材を育ててきた。公園協会は、その使命として、東京の公園や水辺環境の利活用を通して、都民生活に安らぎとゆとりをもたらし、日本の文化を世界に発信することを掲げている。この使命を果たすために、東京の公園緑地をフィールドとして活動する多くの関係機関や都民の皆様との連携を強めていかなければとしている。

② ヒアリング実施日等
日時:平成28 年12 月14 日
場所:公園協会 応接室
ヒアリング対象者:霊園課 課長 大篠則子
聞き手:研究分担者 横田 睦

[13] 東京都公園協会web サイト:https://www.tokyo-park.or.jp/profile/index.html

事例2:一般財団法人 環境事業協会(大坂市)

① 環境事業協会の概要
環境事業協会は、昭和61 年5 月に財団法人大阪市環境事業協会設立。平成8 年10 月に財団法人大阪市霊園サービス公社と統合。平成18 年4 月には、大阪産業廃棄物処理公社の解散に伴い、北港事業を継承する。平成25 年4 月に、般財団法人へ移行し、同年7 月に「環境事業協会」と名称変更している。
廃棄物処理・霊園管理にかかる長年のノウハウと豊富な実務経験を活用して事業を推進し、快適な生活環境づくりをめざすとともに循環型社会の構築に寄与することを経営理念として掲げており、「大阪市設霊園の管理代行」「環境保全等普及啓発事業」「埋立管理事業」「廃棄物処理施設にかかる技術協力」が主な事業となっている。「大阪市設霊園の管理代行」については、平成18 年4 月から大阪市設霊園のうち、瓜破霊園を含め次の9 霊園と大阪市立服部納骨堂にかかる管理業務について、指定管理者となった。
これまでの経験と実績を生かしながら、市民のニーズに応え、より効率的な運営を行い、市民サービスの向上等に努めるとともに、無縁墳墓などの移転改葬も計画的に実施し、霊園整備にも積極的に取り組んでいる。

② ヒアリング実施日等
日時:平成29 年2 月28 日
場所:環境事業協会 応接室
ヒアリング対象者:霊園管理課 課長 加地 唯良
聞き手:研究分担者 横田 睦

(2)ヒアリングを通して得られた知見-「場」の共有による知識化について-
今回、大規模な公営墓地の運営・管理に携わっている2 つの協会において、墓地の管理部門の責任者に対するヒアリングを通して以下の様な知見と考察を得ることができた。
まず、各々の協会においては、同じ部門の職員相互、他の部門、さらにはこれら業務を委託している行政庁関係者と、対面を主とした情報の交換が行われる「場」の構築がなされている。そうした「場」を通して、組織が一体のものとして有機的な結合の形成を実現させている為、各々が得た知恵や経験を言語化させることで「場」の参加者がノウハウを共有でき、現場に反映させることが可能となっている。これを情報の「知識」化の一つの形態と捉えることには一定の蓋然性があろう。
今回のヒアリングでは、「場」の共有による知識化が行われている一方で、「情報の交換」の結果-データの蓄積が長期にわたって十分には行われていなかったことが明らかとなった。
こうした点について「なぜ、記録を残さないのか」という点について、形を変えてヒアリング対象者に繰り返し尋ねたところ、「『情報の交換』の結果をデータとして、蓄積し、整理することを積極的に長期にわたって行ったとしても、そうしたデータを適時取り出し、活用し得る者は誰かというと、他ならぬ『そうしたデータ』を蓄積、整理した者に他ならず、それは極めて属人的ものとなりがちである。特に、それが長期的-過去に遡る程、“死蔵”化されてしまうため」という対象者のコメントを得た。
現状ではデータの蓄積・整理に手間(作業)を費やしたとしても死蔵されてしまうため、それは必要のない“コスト”(負担)であると捉えていることが分かる。しかし、これは決して「情報の交換」の結果をデータとして、蓄積し、整理することの必要性を否定するというものではないと考える。データの整理・蓄積にかける作業が“コスト”(負担)ではなく、担当者が適切な業務運営を行うための業務遂行支援補助(パフォーマンス・サポート)を機能させるために必要な作業だと捉えられるのであれば、各々が得た知恵や経験を言語化し、「知識」化させることの有効であるという現状の把握がなされた。
つまり、担当者が適切な業務運営を行うための業務遂行支援補助(パフォーマンス・サポート)として機能させるための問題点を明らかにし、データの蓄積・整理を行うことが、適切な管理運営や作業改善、あるいは効率化のための手法となることを具体的に提示することが出来れば、現状で機能している「場」の共有(対面の情報交換)は、情報の「知識」化としてより豊かなものとなる。


4-1-2 都立霊園の多様化による情報共有の必要性 >>>


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